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大阪地方裁判所 平成8年(ワ)7324号 判決

原告

増田幾久

被告

安藤儀美

主文

一  被告は、原告に対し、金二七三万一四五九円及び内金二四八万一四五九円に対する平成八年七月二三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを五分し、その四を原告の、その余を被告の各負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告は、原告に対し、金一四〇四万五九八七円及び内金一三〇四万五九八七円(弁護士費用を除いた額)に対する平成八年七月二三日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、普通乗用自動車を運転していた原告が、被告の運転する普通貨物自動車に追突され、既往症の外傷性てんかんが増悪したなどと主張して、被告に対し、民法七〇九条または自賠法三条に基づき、損害賠償請求(ただし、内金請求)している事案である。

一  争いのない事実

1  交通事故の発生(以下「本件事故」という。)

(一) 日時 平成七年三月二三日午前八時五〇分ころ

(二) 場所 大阪府池田市満寿美町三番一九号先市道

(三) 事故態様 被告運転の普通貨物自動車(大宮四六す九七七五。以下「被告車」という。)が原告運転の普通乗用自動車(大阪七九ね七六三五。以下「原告車」という。)に追突した。

2  責任原因

被告は、本件事故の発生につき過失があるから、原告に対し、民法七〇九条に基づく責任を負う。

3  損害のてん補

被告は、原告に対し、本件事故による損害のてん補として、合計一二三万三三四〇円を支払った。

二  争点

1  原告の傷害及び障害の内容、程度と本件事故との因果関係

(一) 原告の主張の要旨

原告は、本件事故により、頸椎捻挫等の傷害を負い、既往症の外傷性てんかんが増悪し、また、内耳障害によるめまい等の症状が出現したものであり、その内容、程度は、自賠法施行令二条別表の後遺障害別等級表の九級一〇号(以下、級と号のみ示す。)に該当する。

(二) 被告の主張の要旨

本件事故は、追突された原告車が約〇・八メートル前方に押し出されたという軽微なものであって、その衝撃度はわずかであるから、原告には頸椎捻挫は全く生じていないか、仮に生じていたとしても極めて軽度のものにしかすぎない。

また、原告が主張する障害は、いずれも昭和五九年に発生した原告の自損事故によって生じ、本件事故前から存在していたものであるから、本件事故とは因果関係がない。仮に本件事故が契機となって生じたものであるとしても、既往症の外傷性てんかん及び内耳障害が大きく影響しているから、民法七二二条二項の類推適用により、八ないし九割の寄与度減額がなされるべきである。

2  損害額

(一) 原告の主張

(1) 治療関係費(二一九万六七九八円)

原告は、本件事故後、次のとおり入・通院して治療を受けた。

〈1〉 市立池田病院に平成七年三月二三日から平成九年三月一七日まで通院

〈2〉 国立循環器病センターに平成七年三月二七日から平成九年三月三一日まで通院、平成七年七月二〇日から同年九月一一日まで入院

〈3〉 谷村整骨院に平成七年三月二四日から平成九年二月二四日まで通院

〈4〉 さわ病院に通院

右入・通院に関して生じた治療関係費は、本件事故から平成八年五月三一日までが一六二万五六五八円、同年六月一日から同年一一月三〇日までが四三万八〇〇〇円、同年一二月一日から平成九年三月三一日までが一三万三一四〇円であった。

(2) 入院雑費(八万一〇〇〇円)

入院一日当たり一五〇〇円として国立循環器病センターに入院した五四日分

(3) ポリネック代(九一六〇円)

(4) 通院交通費(六万九四四〇円)

(5) 植栽運搬費等(七五万円)

原告は、会社勤務の傍ら、霽翔園の名で植栽業を営んでいたが、本件事故により植栽の管理運搬ができなくなったことから、平成七年四月から同年一二月までアルバイト一人を雇用せざるを得なくなり、アルバイト料として七二万円を支出したほか、植栽運搬費として三万円の支出を余儀なくされた。

(6) 休業損害(一三二万七四一〇円)

原告は、平成六年度は三五三万七七〇〇円の給与を取得していたが、本件事故により、平成七年度は二二一万〇二九〇円の給与を取得するにとどまったから、右差額を休業損害として請求する。

(7) 逸失利益(二五六万五三〇九円)

原告は、本件事故がなければ、就労可能な上限年齢に達するまで一年ごとに平均して一か月あたり一万二八六六円の昇給が見込まれていたところ、本件事故により、平成七年は最低要出勤日数二九一日のうちの八八日を欠勤したため、同年の昇給が一か月あたり二八〇〇円にとどまり、また、平成八年は右最低要出勤日数のうちの三八日を欠勤した上、通院等により頻繁に遅刻、早退したことから、一か月あたり一〇〇〇円の減給処分を受けた。

また、原告は、本件事故による通院治療のため、平成八年度は一四日間、平成九年度は二日間有給休暇を使用し、これにより二〇万三一二〇円の損害を被った。

以上によれば、原告の逸失利益は、少なくとも二五六万五三〇九円を下らない。

(8) 入通院慰藉料(一五〇万円)

(9) 後遺障害慰藉料(五〇〇万円)

原告の後遺障害は九級一〇号に該当するから、後遺障害慰藉料は右額が相当である。

(10) 弁護士費用(一〇〇万円)

(二) 被告の主張の要旨

本件事故による原告の傷害は頸椎捻挫だけであり、右傷害による症状は、平成七年四月二七日ころ症状固定になっているから、被告が負担すべき損害額は右期間の休業損害、治療費等に限られる。そして、被告は、原告に対し、右損害のてん補として既に一二三万三三四〇円を支払っており、これにより原告の損害は全ててん補されている。

第三争点に対する判断

一  争点1(原告の傷害及び障害の内容、程度と本件事故との因果関係)について

1  前記争いのない事実に証拠(甲一ないし五、九ないし二二、二六ないし三一、三五ないし四三、四七、四八、乙一ないし八、検乙一、原告本人、弁論の全趣旨。なお、枝番のある書証は枝番を含む。)を総合すれば、次の事実が認められる。

(一) 本件事故前の原告の状況等

原告(昭和三九年一二月三〇日生)は、昭和五九年四月一日、自動二輪車を運転中に自損事故を起こし、右側頭部を強打した結果、同月二四日、目の焦点が合わなくなってそのまま意識を喪失し、また、同年五月ころ、視界が狭まりカメラのファインダーから物を見ているような感じになってそのまま意識を喪失した上、強直性痙攣を生じたため、国立循環器病センターにおいて抗てんかん剤(デパケン等)を投与されるようになり、同年六月九日、外傷性てんかんと診断された。

原告は、昭和五九年に三回、昭和六〇年に二回、昭和六二年に五回、昭和六三年に二〇回以上外傷性てんかんの症状、すなわち、目の焦点が合わなくなり意識を喪失しそうになる、あるいは、カメラのファインダーから物を見ているような感じになり思考が停止するなどといった症状が出現したが(もっとも、意識喪失までには至らなかった。)、国立循環器病センターにおける投薬治療の結果、平成元年以降は右症状の出現回数が減り、右症状が出現した場合でも、その場に座り込むなどすれば元の状態に回復するなど、外傷性てんかんの症状を自ら制御することが可能になった。そして、平成三年一月には、ほとんど前記症状も出現しなくなり、平成五年二月の脳波検査の結果も正常範囲内であった。

そこで、原告は、平成五年五月末ころ、自発的に一週間投薬を中止したが、ふっとする感じになったため、投薬を再開することにした。

原告は、同年七月二七日の脳波検査において、過呼吸時に鋭波、θ波が認められたものの、前記症状は出現していなかったことから、平成六年四月二〇日と二一日に再度投薬を中止したところ、コンピューター使用中に目の焦点が合わなくなる発作が約三〇分続いたため、担当医から絶対に薬を飲み忘れないよう注意された。

そして、同年一一月七日の脳波検査の結果では過呼吸終了時に一、二回のθ波が認められただけで、てんかん波らしきものはほとんど出現せず、本件事故発生前は、薬物治療により前記症状の出現をほぼ完全に押さえていた。

(二) 本件事故状況

平成七年三月二三日に発生した本件事故当時の天候は晴れで、本件事故の現場の路面は平坦でアスフアルトで舗装されており、乾燥していた。本件事故により、原告車は、追突地点から約〇・八メートル押し出されて停止し、被告車も追突直前に急ブレーキをかけていたこともあって追突地点から約〇・二メートルの地点に停止した。なお、本件事故により、原告車は、リヤーバンパーやトランクフィニッシャー等に損傷を受け、修理費用(技術料を含む)として合計約一四万円を要した。

(三) 本件事故後の原告の状況等

(1) 市立池田病院における治療等について

原告は、本件事故後、頭痛、後頭部痛、左頸部痛、吐き気等の症状を訴え、ただちに救急車にて市立池田病院に搬送されたところ、頸椎捻挫、頭部打撲(疑)と診断され(なお、頭部打撲は後に削除された。)、頸椎レントゲン検査、神経学的検査等を受けたが特に異常は認められなかった。原告は、平成七年四月から牽引、超短波等の治療を受け、平成七年五月二日には軽作業可能と診断されたが、その後も仕事に復帰することなく治療を続けた。そして、担当医に対し、同年五月九日、牽引により外傷性てんかんが生じると訴えたため、牽引、超短波を中止された。

その後、平成七年八月一五日から、再度同病院にて治療を開始し、頸部痛や四月ころから右手のしびれがあるなどと訴えたが、神経学的検査等において著変は認められなかった。なお、同病院の担当医は、平成七年一〇月三日、右手のしびれは頸部捻挫による可能性を否定できないと診断した。

原告は、その後も、平成九年三月一七日まで同病院において投薬等による治療を受けた(同病院への実通院日数は三五日)。

(2) 国立循環器病センターにおける治療等について

原告は、平成七年三月二七日、従前の外傷性てんかんの治療のため、国立循環器病センターを訪れ、脳波検査を受けたところ、診断医は、てんかん性の異常脳波の印象を受けると診断した。

原告は、同センターの担当医に対し、本件事故後より、それまで投薬によって押さえていた外傷性てんかんの症状が頻発するようになり(原告は、平成七年四月に一〇回以上、同年五月に数回、小発作を思わせる失神様の発作、目の焦点が合わなくなり気が遠くなるという症状が出現すると訴えた。)、また、頭痛、回転性めまい(天井が回るなどの症状)、右手のしびれ、吐き気等を訴えた。同センターの成冨博章医師(以下「成冨医師」という。)は、外傷性てんかんが増悪している可能性もあると考え、投薬量を増加して様子を見たが、なお原告の愁訴が変わらなかったため、平成七年七月二〇日より原告を入院させて精査することにした。

原告は、入院中も、頭痛、後頭部痛、右手のしびれ、回転性めまい、耳鳴り、吐き気等の症状を訴えたが、外傷性てんかんによる症状はほとんど認められず、成冨医師は、症状発現時の診察結果、脳波所見、CT所見、耳鼻科的検査等を総合した上、めまい等の症状は外傷性てんかんによるものではなく、主として右内耳障害に起因するものであり、また、頭痛、右手のしびれ等は頸椎病変に由来すると診断した。

なお、耳鼻科的検査においては、右内耳障害はおそらく本件事故前から存在していたものであると診断されたが、成冨医師は、本件事故後に急激に回転性めまいが頻発していることから、右内耳障害に起因する回転性めまいは、本件事故と因果関係があると診断した。

原告は、同年九月一一日、前記症状が軽快したことから同センターを退院し(同センターへの入院日数は五四日)、その後も月に一ないし二回程度同センターに通院して治療を受けたが(なお、原告は、同年九月二八日より仕事に復帰した。)、依然として、めまい、吐き気等の症状を訴え続けたため、担当医は、抗てんかん剤以外の薬も投与して治療を続けた。

そして、成冨医師は、平成八年六月三日、原告の症状は平成八年四月八日に症状固定の状態に至ったと診断し、自覚症状記載欄に「(本件事故)以後回転性めまい、目の焦点が合わなくなる、後頭部痛、右手がふるえる等の症状が出現した。入院、通院治療により、平成八年四月八日以後はほとんど症状を認めていない。」旨を記載し、他覚症状等記載欄に「右耳の軽度難聴、めまい以外は脳神経系に異常なし。脳波は過呼吸終了時にθ波群発が出現し、軽度の異常を認める。耳鼻科的検査では軽度の右感音性難聴、右半機能低下を認めた。」旨を記載した自動車損害賠償責任保険後遺障害診断書及び「平成八年四月八日以後は時にめまいを認めるのみとなり、症状はほぼ安定したと考えられる。しかし、投薬を中止したらめまいの増悪が生じる可能性は高いので、今後長期間の投薬が必要である。」と記載した診断書をそれぞれ作成した。

しかし、原告は、右症状固定後もめまいや吐き気等を訴え、同センターに月に一ないし二回程度外傷性てんかん及び内耳障害に起因するめまい等について、投薬のため通院を続けている(同センターへの実通院日数は三二日)。

(3) 谷村整骨院における治療について

原告は、前記各病院における治療以外にも、本件事故が発生した翌日である平成七年三月二四日、それまで労働災害事故によって受傷した腰部について施術を受けていた谷村整骨院を訪れ、柔道整復師に対し、本件事故により頸部、上腕部、腰部を負傷したと主張して、電療法、運動療法、鍼治療等による施術を受けていたが、後に腰部は本件事故とは無関係であることが判明したことから、その後は、本件事故と関連する頸部、上腕部について施術を受けた。そして、原告は、平成九年二月二四日まで同整骨院に通院して施術を受けた(同整骨院への実通院日数は二五八日)。

2  当裁判所の判断

(一) 以上の認定事実によれば、原告は、昭和五九年の自損事故により外傷性てんかんの後遺障害を負ったが、本件事故発生前は特に脳波に異常はなく、投薬により外傷性てんかんの症状をほぼ押さえていた状態であったところ、本件事故によって頚椎捻挫の傷害を負ったことから、再度脳波に異常が認められ、目の焦点が合わなくなるといった外傷性てんかんの症状が出現したほか、既往症の右内耳障害が影響して、本件事故前には見られなかった回転性めまいが出現し、また、頸椎捻挫に伴う頭痛、吐き気、右手のしびれ等の症状が出現したものであるから、原告の右各症状は、本件事故と相当因果関係を有するものと認められる。

もっとも、原告は、成冨医師によって症状固定と診断された平成八年四月八日ころには、いわゆる症状固定の状態に至ったと認めるのが相当であるところ(なお、これに反する証拠〔乙一〕もあるが、原告の治療状況等に照らし、採用できない。)、そのころには、外傷性てんかんの症状は本件事故前の状態に復しており、その後はもっぱら右内耳障害に起因する回転性めまいや吐き気等の症状が残存していたにすぎず、そして、右症状は、主として本人の自覚症状に基づくものであって、これを裏付ける他覚的所見に乏しいものであるから、原告の後遺障害はせいぜい「局部に神経症状を残すもの」として一四級一〇号に該当するにすぎないというべきである。

(二) これに対し、被告は、本件事故が軽微な事故であることや、原告には外傷性てんかん及び右内耳障害の既往症があることを主張して、前記(一)で認定した本件事故後の原告の諸症状と本件事故との相当因果関係を否定するが、前記認定の本件事故状況によっても頸椎捻挫が起こり得ないとはいえないこと、原告には本件事故後、主として自覚症状によるものであるが、本件事故前には見られなかった症状が出現していること、本件事故状況、本件事故前後の原告の状況の差異、治療状況等に照らせば、右愁訴がもっぱら詐病であるとまでは認められないこと、原告の担当医の成冨医師も本件事故との因果関係を肯定する診断をしていること等に照らすと、被告が主張する右事実は、前記(一)の相当因果関係を認める認定を妨げる理由とはならないというべきである。

二  争点2(損害額)について(各項目下括弧内記載の金額は原告主張の損害額であり、計算額については円未満を切り捨てる。)

1  治療関係費(二一九万六七九八円) 五六万七五九六円

前記認定のとおり、本件事故によって生じた原告の症状は、平成八年四月八日には症状固定の状態に至ったと認めるのが相当であるところ、本件事故と相当因果関係のある治療費は、原告の傷害の内容、程度、症状の内容等に照らし、右症状固定日までの分に限られるというべきである。

(一) 市立池田病院分 一三万円

証拠(甲一〇の17、四七の1ないし6、四七の9、10、乙二の2、弁論の全趣旨)によれば、同病院における症状固定日までの治療関係費は、合計一三万円と認められる。

(二) 国立循環器病センター分 一一万七一三八円

証拠(甲一〇の3ないし14、四八の1ないし12、弁論の全趣旨)によれば、同センターにおける症状固定日までの治療関係費は、合計一六万七三四〇円と認められる。

もっとも、前記一の1記載の各証拠によれば、同センターにおける治療費には、既往症の外傷性てんかんに対する治療費が含まれていると認められるところ、前記認定の本件事故前の原告の状況に照らすと、原告は、本件事故が発生しなかったとしても、本件事故が発生した平成七年三月二三日から相当期間にわたって外傷性てんかんの治療を続けていたと容易に推認できるから、前記治療費全額を本件事故と相当因果関係のある損害と認めることはできず、前記認定の本件事故前の状況、本件事故状況、本件事故後の原告の状況等を総合考慮し、右治療費の七割を本件事故と相当因果関係のある損害と認める。

なお、前記認定事実によれば、国立循環器病センターにおける治療については、症状固定後もめまいを押さえるために投薬を続ける必要があると診断されているが、症状固定後の治療は既往症の外傷性てんかんの障害に対する治療が主目的であるとも考えられること、症状固定の状態に至ったと認める平成八年四月八日以降において、外傷性てんかんが本件事故前より増悪しているとの事情も認められないこと等に照らすと、同センターにおける症状固定後の治療費と本件事故との間には相当因果関係を肯定することができないといわざるを得ない。

(三) 谷村整骨院分 三二万〇四五八円

原告が市立池田病院及び国立循環器病センター以外に谷村整骨院に通院し、頸部痛や上腕部痛について施術を受けていたことは前記認定のとおりであるところ、前掲関係各証拠によれば、原告は、市立池田病院や国立循環器病センターよりも右整骨院に頻繁に通院しているのであって(原告は、症状固定するまでに、市立池田病院に二六日通院し、国立循環器病センターに五四日入院するとともに、一九日通院しているが、谷村整骨院には、一五三日通院している。)、同整骨院における施術内容をも併せ考慮すると、右施術も原告の症状の回復に一定の効果を上げていたと推認することができるから、右施術を不必要かつ不相当なものであったということはできない。もっとも、右施術が医師の指示等によってなされたことを認めるに足りる証拠はなく、また、施術費が病院における治療費よりも相当高額であることなどを考慮すれば、症状固定日までの施術費全額を本件事故と相当因果関係を有すると認めることはできず、本件事故と相当因果関係を有する施術費はその三割に限られるというべきである。

そして、証拠(甲一〇の18、三〇の1ないし8、三一、四五、弁論の全趣旨)によれば、同整骨院における症状固定日までの治療関係費は、合計一〇六万八一九六円と認められるから、同整骨院の治療関係費は、その三割である三二万〇四五八円となる。

(四) さわ病院分 認められない

証拠(甲一〇の15)によれば、原告は、症状固定前の平成七年九月二〇日、さわ病院に一日だけ通院し、四万二二二八円の治療関係費を支出していることが認められるが、本件全証拠によっても、右治療内容は不明であるから、右治療の必要性・相当性を認めることはできない。よって、これを損害と認めることはできない。

(五) 以上によれば、治療関係費は、合計五六万七五九六円となる(なお、原告が本件事故から平成七年六月一五日までに治療関係費として八万八九一〇円を要したことは当事者間に争いがないところ、本件全証拠によっても右治療関係費と前記認定の治療関係費が別個のものであるとは認められない。)。

2  入院雑費(八万一〇〇〇円) 七万〇二〇〇円

入院雑費は、入院日数五四日について一日あたり一三〇〇円が相当と認められるところ、前記認定事実によれば、右入院は本件事故と相当因果関係を有すると認められるから、右全額を損害と認める。

3  ポリネック代(九一六〇円) 九一六〇円

当事者間に争いがない。

4  通院交通費(六万九四四〇円) 二四九〇円

原告が、通院交通費として二四九〇円を要したことは当事者間に争いがなく、右額以上の通院交通費についてはこれを認めるに足りる証拠がない。

5  植栽運搬費等(七五万円) 三万円

証拠(甲三二ないし三四、原告本人、弁論の全趣旨)によれば、原告は、本件事故当時、会社勤務の傍ら、霽翔園の名で植栽業を営んでいたが、本件事故後、自ら商品を運搬することができなかったため、平成七年三月二七日、同年四月一二日及び同月二七日の三回にわたり、商品運搬の代行及び運賃として合計三万円を支払ったことが認められ、右損害は本件事故と相当因果関係のある損害と認める。

もっとも、前掲証拠によれば、原告は、本件事故により、平成七年四月から同年一二月までアルバイト一人を雇用し、アルバイト料として合計七二万円を支払ったことが認められるが、前記認定の原告の症状の内容、程度、治療状況等に照らすと、右アルバイト料が必要かつ相当な支出であったとまでは認められないから、これを本件事故と相当因果関係のある損害と認めることはできない。

6  休業損害(一三二万七四一〇円) 一三二万七四一〇円

証拠(甲六の1、2、四六の3、弁論の全趣旨)によれば、原告は、平成三年四月一六日より大阪観光株式会社に勤務し、平成六年の年収が三五三万七七〇〇円であったが、本件事故により、休業あるいは遅刻、早退を余儀なくされ、平成七年の年収が二二一万〇二九〇円に減額したことが認められ、右減収は全て本件事故と相当因果関係のある損害と認める。

7  後遺障害逸失利益(二五六万五三〇九円)認められない

(一) 原告は、本件事故がなければ、就労可能な上限年齢に達するまで一年ごとに平均して一か月あたり一万二八六六円の昇給が見込まれていたのに、本件事故により、同年の昇給が一か月あたり二八〇〇円にとどまり、また、平成八年は、一か月あたり一〇〇〇円の減給処分を受けたと主張して、これを逸失利益として請求するのでこの点について判断する。

証拠(甲五〇の2、弁論の全趣旨)によれば、原告は、本件事故前は毎年九月に平均して月額一万二八六六円の昇給があったところ、本件事故による治療等のため休業したことなどにより、平成七年九月の昇給は二八〇〇円にとどまったことが認められる。しかしながら、原告の主張する逸失利益が認められるためには、原告が今後就労可能な上限年齢に達するまで昇給が継続することが前提とならなければならないところ、右事実を認めるに足りる証拠は存しないから、原告の主張は理由がない。

もっとも、原告が本件事故により昇給の額が少なくなるなど一定の損害を被ったことは前記認定のとおりであるところ、この点は後遺障害慰藉料において考慮することにする。

(二) また、原告は、本件事故による通院治療等のため、平成八年度は一四日間、平成九年度は二日間有給休暇を使用したことにより合計二〇万三一二〇円の損害を被った旨主張し、右主張に沿う証拠もあるが(甲四六の4、五〇の1、弁論の全趣旨)、有給休暇の使用によっては具体的な減収が生じないことからすれば、右事情は後遺障害慰藉料の算定において考慮すれば足りるというべきである。

8  入通院慰藉料(一五〇万円) 一五〇万円

前記認定の原告の傷害の内容、程度、入通院状況、治療状況等の事情を総合すれば、原告の入通院慰藉料は一五〇万円を相当と認める。

9  後遺障害慰藉料(五〇〇万円) 一八〇万円

前記認定の原告の後遺障害の内容、程度、原告主張の逸失利益を認めなかったこと、その他本件に顕れた一切の事情を総合すれば、原告の後遺障害慰藉料は一八〇万円を相当と認める。

10  民法七二二条二項類推適用による減額について

前記認定事実によれば、原告の右損害の発生あるいは拡大には、原告の既往症である外傷性てんかん及び右内耳障害が影響を与えていることが明らかであるところ、本件事故によって生じた損害の全てを被告に負担させることは、損害の公平な分担という損害賠償の理念に反するから、民法七二二条二項を類推適用し、本件事故前後の原告の状況、本件事故状況等を総合考慮の上、右損害合計額(五三〇万六八五六円)から三割を控除するのを相当と認める。

五三〇万六八五六円×〇・七=三七一万四七九九円

11  損害のてん補

右損害額から当事者間に争いのない損害のてん補額である一二三万三三四〇円を控除すると、二四八万一四五九円となる。

12  弁護士費用(一〇〇万円) 二五万円

本件に顕れた一切の事情を考慮すれば、弁護士費用は、二五万円を相当と認める。

三  結語

以上によれば、原告の請求は、二七三万一四五九円及び内金二四八万一四五九円に対する本件訴状送達の日の翌日である平成八年七月二三日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。

(裁判官 松本信弘 石原寿記 村主隆行)

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